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朝、あまりの寒さにくしゃみをして、私は覚醒した。
「寒ぃ〜」
だけど、寒さと眠気が襲い掛かってまた目を閉じる。何か暖かいもの、と手探りでごそごそすると、先ほどまではなかった温もりが手に触れ、無意識にそれを抱きしめようとした。
が、引っ張れば引っ張るほどそれは蛇のように延々と続いて、ようやく温もりの核に近づいた所で抱きしめ、それからはっと気が付く。
「や、矢彦?!」
「おはよう」
正面にいる男は奇天烈な私の行動に笑いを堪えているようだった。頬が真っ赤に感じるのを感じたが、それどころじゃない。私は今、矢彦に自分から抱きしめたのだ。その記憶がある。……しかも、裸で。何たる汚点。恥ずかしすぎる。
矢彦は気に留めていなかったかのように抱擁を返す。…………裸で。
「あ、お、おはよう……」
「早く着替えないと風邪を引く。まだ寒さは厳しいからな」
そう言って矢彦は私から離れ、簡易な着物を羽織った。私は離れていった温もりに不安を感じつつ、一人で呟いた。
「やっちゃった……」
そのあと、遅めに起きた私に朝餉の用意が出来たというので部屋を覗くと、目が合った女官ににっこりと微笑まれ、違和感を覚えながらも席に着いた。それからは何処から流れてきた情報なのか、昨日の夜について語り合うことになった。あぁ、恥ずかしいったらありゃしない……。
「天華、天華!」
やけに明るい表情をした九卿に足止めをくらい、私は仕方なく後ろを振り返った。出来る事なら関わりたくないと思っていた人物だけど、周りに人の目があるので放っておくことも出来ず。
「……何」
「あの後、やっぱり展開どおりになったの?」
「展開どおり、って九卿こうなること分かってたの?」
「質問を質問で返さないでよ、紛らわしいなぁ」
「…やったわよ、展開どおりに」
憎らしげに呟いたのに、九卿はそうかそうか、と私の肩を叩いた。
「よくやったと矢彦に言って頂戴な」
「直接言いなさいよ、本人に」
「嫌だねぇ、僕がそんなこと言ったら何で知ってるのか逆に聞き返されちゃうだろー?」
「……いっぺん苦しんできなさい、九卿」
冗談だよ、とあははは笑う九卿をきつく睨んだ。体がきついというのに、これでは精神的の方が耐えられないんじゃないのかと思ってしまう。
九卿は読めない表情でだってさ、と続ける。
「矢彦は僕と違って繊細なんだもの。ごたごたした世界から僕を引きずりあげるほど、とても純粋で素直なんだよ。素直すぎて敵を作ってしまったけれど、それは僕が追い払ったし。でも、長老は邪魔だなぁ」
九卿が何を言っているのかわからなかった。だけど、裏の皮がはがれたかのように、今まで見せた事のない表情を晒していた。
私はどのように反応したら良いのかわからず、適当に相槌を打った。
「浜が紀伊の恩人であることと同じように、僕の恩人は矢彦なんだ。だから僕は矢彦に幸せになって欲しかった」
紀伊の恩人が浜であることに驚いた。あぁ、だから私を貶していたりして、浜の味方になっていたのかと納得する。浜は私にとっての恩人でもある。
「九卿は矢彦のこと、好きなんだね」
「恋慕とは違うけれどね。好き、とはちょっと違うのかもしれない。って、あれ? 浜?」
九卿は目を丸くして私の背後に視線をずらした。振り返ると、不機嫌ですオーラを出しまくっている浜がいた。
うわぁ、と思いいつつ九卿の影に隠れると、浜に止められた。
「天華、話があるわ。今すぐ来て」
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