神様が消えた直後、榊は居た堪らない気持ちになりました。

 自分の大事な物がなくなった感触、半身をもぎ取られたような気分だったのです。

 それでも、自分は何もしていません。

 何かを失ったということに最初はあまり信じていませんでした。

 数日が経って、やっと榊は気が付きました。

 自分の髪が白く、鏡の自分の目は赤かったのです。

 そして榊は悟りました。

 神様の姿が何処にもないということ。

 原因は赤の全神にあるということ。

 もう榊には、何も考えられませんでした。

 世界で一番大切だった神様を失くしてしまったのですから。



 一方、赤の全神はどうしたら良いのか、神様が消えたその場所でずっと立ちすくんでいました。

 神さまが消える前、赤の全神は神様からあるものを授かりました。

 丸く、手のひらに収まるような玉をいくつも連ねた大きな数珠。

 それを片手に、ずっとそこに立っていたのです。

 神様が消えたとはいえ、自分が殺してしまったのですからこの地を離れるわけにはいけません。

 だからといって榊にみすみす殺されるわけにもいけませんでした。

 自分は何か大きな宿命を授けられた。

 赤の全神はそう思いました。

 そのために神様から数珠を授かり、その宿命を果たしにゆくのだ、と。

 その宿命とはどういうものかわかりません。

 いったい自分は何をすれば良いのかも。

 ただわかることといえば、榊の怨念を晴らさなければいけないだろうということでした。

 それが、今は亡き神様の願いであろうということも。



 榊は虚ろになりながらも赤の全神を見つけました。

 今の榊には赤の全神を恨む気持ちしかありません。

 恨んでも恨みきれないくらいの気持ちだったのです。

 そして赤の全神を殺そうとして一歩、歩き出した時、地震が起こりました。

 それは、赤の全神の願いで起こった地震でした。

 榊はいち早くそれを悟り、正気に戻りました。

 何をするの、と榊は叫びます。

 そなたの恨みを果たそう、それが一番楽であろうから・・・。

 その赤の全神の言葉と共に、榊は消えてしまいました。

 神様が微笑みながら消えたときとは違い、榊は泣きながらにして消えてしまったのです。

 その涙は憎くて流したのか。

 それとも悲しくて流したのか。

 どちらにしても、赤の全神には辛いものでしかありません。

 赤の全神は願いました。

 長い年月を経て、そなたの恨みを果たそう、と。

 そなたの輪廻を繰り返すまでは、私の子孫がその恨みを全て受け止めよう、と。

 その契約がある限り、全神と迦楼羅の縁は絶対に切れる事はないだろう、とも。

 それがせめての報い、神とそなたの関係を唯一繋いだもの。

 だから思う存分、恨みをぶつけてきてくれ。

 そして、そなたと神の冥福を祈ろう。

 それらの言葉が綴られた時、数珠に連ねられていた玉たちは一斉に飛びました。









 遠い昔の話。

 いまだ赤の全神の願いは果たされていないのです……。

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