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わき腹を刺された。
ありえないはずの事実が私の頭で駆け巡る。
――――刺された……。
――――私が、彼方に?
「かな、た」
震える手を彼方の肩において、彼方から離れようとした。しかし、彼方がそれをさせまいとさらに抱きしめる。
「いたいよ、彼方」
抱きしめられたまま私は呟く。大きな声は出せなかった。声を出すたびに体に激痛が走ることを初めて知る。喋らずじっとしていたら痛みは堪える事は出来そうなのだけど、抱きしめられたらそんなこと関係がないことはわかっている。
いたい。
本当に、いたい。
痛くて何も考えられない……。
――――どうして私を刺したの?
痛くて何も考えられないのかと思うとそうでもなく、逆に痛みよりも今私の頭はそのことでいっぱいだった。
どうして。
そんなこと思っていたって分かるわけがない。それでも、私は考えることを止めなかった。止めることができなかった。
彼方は理由もなく刺したりするような人じゃない。しかも、全神である私に。・・・もしかしたら、全神であるからこそ私を刺したのかもしれない。でもそうだとすると辻褄が合わない。どうして過去の話を教えてくれたり、気を許してくれたり私にキスをしたのか。
抱きしめられているせいで彼方を見る事が出来なければ様子をうかがうことも出来ない。激痛でそんなことに気を使う余裕もなかったけど、せめて彼方がどんな顔をしているのかさえ、知れたらいいのにと思う。そうすれば全て嘘だってこと、わかるかもしれないから。
「か、かなたっ」
激痛がさらに酷くなってくる。倒れたいと思うのに、彼方の名前を呼ぶたびに抱きしめられる力が強くなって、それがさらに傷に響く。
「放してぇっ!」
ぎゅっと今までよりさらに強い力が込められ、思わず大きな声で叫んでしまう。小さな声だけでも体が軋むように痛いのに、今はその何倍もの痛みがきて、涙がこぼれた。前は霞んで何も見えない。痛みだけが体全体に感じられた。
いつまでこうしていればいいの?
――――私が死ぬまで?
なら、早く殺してしまえばいいのに。もう痛みなんか味わいたくないのに。
途端に、力強く腕を引っ張られ、今度は優しく抱きしめられる。確認するまでもなく、彼方ではない誰かに助けられたのだ。
彼方は数メートル離れたところで所在なさげに立ちすくんでいる。
――――だ、れ?
そんなこと、もうどうでもよかった。ただ痛くて、わき腹を押さえながら俯く。私を引っ張った誰かは私の顔や手を触って様子を伺っている。けれど、私はあまりの痛みに目をつぶっていて、それが誰なのか確認する事は出来なかった。
「お前がやったのか」
「そうだよ」
大きな怒りを感じられる声の響き。そして悲しそうに笑う彼方の表情。
「――矢彦?」
身動ぎに気付いた、私を抱きしめる人は私に優しく微笑む。
間違えることはない。矢彦だった。
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