山賊となってからだいたい数週間過ぎた。なぜアバウトなのかというと、5日ほどして私が日数を数えることをやめたからだ。正確には、止めさせられた。
 4日目か5日目のとき、樋都と話していると、自覚はないのだが私は時々顔を暗くするらしい。樋都はそれを心配していて、何とあの忌々しい雷に告げ口したのだ。そして、雷と彼方がその原因をいち早く突き止めて、「ここにいる間は昔のことを忘れろ」といわれてしまった。
 二人にそう言われたとき腹立たしく思ったのだが、こうやって独りになると冷静になって考えることができた。

――――私、引きずっているのかな。

 何に、と聞かれると口噤んでしまうけれど、やっぱり何かに引きずられているのではないのかと思う。私がいた時代のことに、死んだことに。もしくは死に掛けた少年のことに。
 どれも気にすることばかりで、自然と顔に出てしまったのだろうか。

――――それなら樋都に心配をかけてしまったことを詫びていかなきゃいけないな。

 ふう、とため息をついて仕事を再開した。








 見慣れた森を横切って川の水を引き上げようとしたとき、水の中で遊ぶような音が聞こえた。何があるのだろうかと振り向くと、岸のほうで裾を上げながら歩いている海道がいた。

「海道?」

 樋都に最高三年間空けていたときがあると聞いていたので、てっきり一年は会えないだろうと思っていた私は絶句した。
 海道も振り向いて私を見つけた。

「ん? お主は天華か。どうだ、慣れたか?」
「まぁ、ぼちぼちですねー……倒れたりとかしていたけど、今はちょっと楽に感じていますよ」

 数週間ぶりで、あまり話した記憶がないので口調が変わってしまう。だけど、海道はあまり気にしていない様子で、そうか、と呟いた。

「お頭を見たか?」
「屋敷のところにはいませんでしたから、樋都のところじゃないんですか?」

 首かしげて、私はそう答えた。すると海道はまた、そうか、とだけ呟いて陸地に上がった。それが何かに急かしているようで、私は妙な焦燥感を覚えた。

――――海道?

 海道は川を渡ってきたらしく、濡れた髪を垂らしながら服を絞っていた。
 そして不意に海道の背中を見て、私は驚愕した。

「ちょっ、その血は――…っ?!」
「あぁ、気にしなくてよい。ただの返り血であろう」
「返り血……?」
「少しごたごたしたものに巻き込まれてしまっただけのこと。それより、天華」
「はいっ」

 海道のまっすぐな目線に私は怯みながらも返事をした。

「どうせならおぬしの方が早いだろう。すぐにお頭を呼んでくれぬか」
「お頭を? なんで? って、どこへ?」

 海道は服を絞る動作を止め、私のほうに振り向いた。
 そして、思いもしなかった言葉を言ったのだ。




「戦だ。そういえばわかる」

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