あれから、三日が経った。

 私はここに来て本当によく働いたといえるだろう。
 山賊といっても、私は雑用みたいに盗んでいるところをん眺めて荷物を運ぶというものだった。盗む方に回っては失敗することは目に見えているし、それよりも逆に危険にさらわれてしまうので雷や樋都は断固として私を使おうとはしなかった。というより、私が嫌がった。
 だけど、ただの荷物運びだと甘く見ていた私は早くも力尽きてしまった。現実世界での運動不足が祟ったのだろう。なんとも情けない。筋肉痛で動けない私に、樋都は私の体を心配してくれたのだが、雷は何故か樋都が私のところへ来るたんびに機嫌を悪くして、私に八つ当たりやら文句やら悪口やら独り言やら……それをぶちまけてくるのだ。私にどうしろと言うのだ、全く。
 それでやっと気づいたのだが、雷は樋都のことが好きなのだ。そうなのではないかと思っているので本当のところはどうなのかは知らないけど。二人のやり取りを見て、二人とも実は恋人でした、だなんてオチはいわないでよねと何度言いかけたことやら。
 二人にその気はあるのだろうが、二人ともそれに気づいていないというのか、雷は気づいているのだろうがそれを樋都に言わないという思春期のときのような繊細の心を持っているようだった。私にはもどかしくて耐えられないのだけど。そして樋都はそれに気付かずに私に近づいてくるのだから、雷の視線に耐えなければならない私としては複雑な心境である。とりあえず、今のところは雷と会うことを避けているという始末だった。要領が悪い私と、案外鈍感な樋都にはとても難しいことだったけれど。
 海道は相変わらずどこかへ旅立っているらしい。海道はどちらかというと、山賊の仲間というよりは助っ人という存在に近いようだった。この村の女性はほとんど、というより全員は海道に連れてこられた雷のお手つきらしい。樋都だけはそれに当てはまらないらしく、どうやら山賊の仲間で入られる理由はそこにあるとかないとか。
 とりあえず海道は当分帰ってこない、とのことだった。最高3年間ここをあけていたときがあったそうだ。3年ぶりに戻ってきた海道は全然変わっていなくてびっくりした、と樋都は言っていた。あの人はいったい何歳なんだと思ったのは言うまでもない。
 そして彼方はあの時から頻繁に顔をあわせている。というのも、彼方が私を見つけ出しては意味不明な言葉をよく投げてくるのだ。そしていつの間にやら愛の言葉らしきものまで投げられてしまった。嫌がって逃げようとして樋都と鉢合わせしたときは、それはもう、大変だった。二人の間から冷たい空気と激しい炎と飛び散る火花が見えて、私はその後誰にも見つからぬように隠れたのだ。そのあとの二人がどうなったのかは知る由もない。




 そこである日、といっても昨日のことだけど、私は思い切って彼方に尋ねてみた。

「彼方、どうして会ったばかりの私に構うの?」

 言い忘れていたが、男装は頗る順調だ。相変わらず口調はそのままだけど、そのあとの必死の努力と彼方のフォローで何とかしのぐ事はできる。山賊の皆さんには怪しまれてはいないはず。多分。
 彼方は目を丸くして、私の言葉に疑問を持ったようだ。

「独り占めにしたいといわなかったかい?」
「だけど、私が全神だからって近づいているようには見えない」

 これは本当のことである。山賊の皆は私に親切にしてくれるので、おそらく好意を持ってくれているのだろうけど、彼方ほど近づく人はいなかった。樋都は別として。

「断定?」
「断定」
「そう急くものではないよ。いつかわかることさ。じっくりと時間をかけて考えればいい。そうすれば全神という理由で近づいた、ということではないことがわかる」

 彼方はさっさと話を切り上げようとして立ち上がった。けど私はそれを阻止する。

「教えてくれないの? 焦らさないで、教えてくれたって良いじゃん」
「我慢できないのかい?」
「悪かったね、馬鹿で。しかも愚かで」
「誰もまだそんなことは言っていないのだけどなぁ」
「前に彼方が言ったのよ!」

 彼方はにやにやと笑って私に近づいた。どうせ逃げられないのだから、罵倒してやろうと思って口を開いた。

「だいたい意味わからないことばっかり振りかけるからこんなことになっちゃったんじゃない」
「じゃあ今度は愛を振りかけよう」
「いらない、余計タチ悪い」

 なんでいつもこうなるんだろう、と少し落ち込んだ。彼方は面白そうに私の顔を覗きこんだ。私には呆れの表情にも見えたけど。

「天華、どうせなら言葉じゃなくて体現してみようか」
「……は?」
「抱きかかえてあげるよ、そうしたらわかってくれる?」

――――……い、嫌!

 と、突然、背後から怨念まがいものを感じた。
 何事かと思って振り返ると、そこには恐ろしい表情をした樋都がいた。
 そしてこう呟いたのだった。

「彼方、嫌がっている女を抱きしめる男には制裁を加えなければいけないことを知っているかしら」

 天華は嫌がっていないけど、の彼方の言葉に、問答無用! という樋都の地が裂けそうなほど大きな声が聞こえ、私は右回りをして必死に逃げた。恐ろしい、怖いを通り越して化け物を見てしまったような感じがして私は身震いした。



 結局私は二人に捕まり、逃げることは不可能となってしまった。

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