「男装してこんなに早く見つかると思わなかったよ。まだ一日もたっていないじゃないか」
「無理よ、普通に考えて私は小さいけど胸があるし女顔なんだし、彼方さんみたいに演じることは出来ないし」
「それでも演じ続けるしかないんだよ。自分が恥ずかしがっても、相手に悪いと思っても、それは嘘つくことと一緒だからね。君は演じてその姿を隠すしかないんだ」

 彼方からの説教を受け、少しだけ腹が立った。いや、説教というよりは頑固者同士の喧嘩にも聞こえるかもしれないけれど。

「私、嘘つくことは嫌いだわ。何より、下手なんだし。だから無理なんだって」

 はぁ、と彼方はため息をついた。ため息ついてばっかりだね、と言いかけて無理やりそれをとどめる。そうなった原因は私にあるのだから。

「君ねぇ、どうしてこの姿になっているのか分からなさそうだから言うけれど、女は山賊に入ってはいけないという暗黙の了解があるんだ。樋都も山賊だけど、ま、あいつはいろいろと昔から特別だからね。そして女装をしているとはいえ、僕は男。この山賊は基本的に男で成り立っている。でもそんなときに君は現れた。女の君がね。そしてこの山賊に入りたいと言った」

 私はぎょっとした。

「もしかして、私がしようとしていたのは……」
「女が山賊に入ると、その山賊は均衡を崩していつかは滅びてしまう。君、この山賊を滅ぼそうとしていたんだよ」

 本当に申し訳ない。そのことを知っていれば入ろうと思わなかっただろう。それにしても、山賊は海賊に似ている。女を船に乗せると船が沈むとか聞いたことがあるけど、その似たようなものが山賊にもあるとは思わなかった。

「……ごめん、そんなこと知らなかったの。それでも私を入れてくれたのはどうして?」
「皆に君が女だと知らせなければいい。だから男装するようにと、お頭は言ったんだよ。君は国全体の脅威となりうる者。入れなければ、この国もいつかは滅びてしまう。ここに来たのは不幸中の幸いだね。ここでは迦楼羅が君を守っている。迦楼羅と全神が存在を永らえているからね」

 笑顔の表情を消した彼方は真剣だった。つい、こちらも真剣な表情となってしまう。

「どういうこと?」
「そのままの意味さ。それより注意することだね。この山賊を滅ぼしたくないのなら少年の姿でここの生活に馴染むことだ。先刻のように噂で駆けつけた女たちを君が嘲るんだよ。それから君が女だということを知っているのはお頭と樋都と海道と僕だけ。それと、僕が男だということを知っているのも君を含めて4人だけ。そのほかの人にばらしてはいけないよ」
「……わかったわ」

 そこで彼方は笑みを浮かべて私の頭をぽんぽん叩いた。それは私を子ども扱いにしているようだったけど、『力抜いていいよ』といわれているようで、私は安心した。

「迦楼羅らしくないねぇ。皆が見たらどう思うか」
「私は迦楼羅じゃない、普通の人間! それよりも彼方は私に用があってきたんじゃないの?」
「そうだった」

 彼方は舌打ちをして眉をひそめた。舌打ちしたその姿が(女の姿をしているけど)、あぁ山賊の男なんだなぁと妙に感心してしまう。舌打ちする理由はわからないけれど。そして彼方はため息をついた。本当に多い。

「お頭が君を呼んでいた。なんでも会わせたい人がいるそうだよ。まぁ会わせたい人がいるというのは僕が解釈したものだけど」
「会わせたい人?」

 そこで何を思い出したのか、彼方の表情はころっと変わってとても嬉しそうになものになった。彼方の知っている人がくるのかと聞けば、そうでないと答えた。じゃあ、どうしてこんなにも嬉しそうなのよ。

「この村の近くに忍者の里があるんだ。国からしてみればそう大きくもないし強くもないが、ここの地域では恐れられている里さ。それで金目のものがたくさんありそうだなぁと思ったら、つい、ね」
「まってまってまって!」
「何だい? まった星人」
「何その例え、じゃなくって!」

 彼方はたとえ方が現代に似ている。いや、千鳥に『魚のよう』と例えたのはどうかと思ったけれど、私もつい現代のツッコミを入れてしまった。

「山賊の血が勝手に騒ぐのはいいけど、ちゃんと説明して欲しいわ。つまり、あなたの言い分を解釈して、会わせたい人というのは忍者の里の誰かということ?」
「あぁ、うん、そうだよ。多分忍者の里長が来るんじゃないのかな? 里長と言うより当主と言った方が正しいだろうけど」

 首をかしげて彼方は考えている。

「忍者の当主……ってそんな偉い人が何の用でこのへっぽこ山賊に来るのよ」
「口を慎むことだね、天華。あと言い忘れていたけれど、その女言葉は人前では禁止」
「了承、したわ」

 納得いかないような顔をした私に、ぽんぽんと頭を撫でられる。
 私って結構子供扱いにされてる気がする。

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