「おい不良娘! 内臓の位置が違う! どうみても心臓はこっちから見て右寄りだろうが!」
「……肝臓は奥、肺よりも前にくることはないのである」
 あぁ、神様、なんであたしは後輩にこんなことを言われなきゃいけないんでしょう。



delinquent girl×scheming teacher
不良少女×腹黒教師

4、それは偉大なご妄執の調べ              


 あたしは遠山祢亜。ネアと読む。先日、始業式と一年生の入学式を終えて新しい学年での授業が始まった。入学式のある日には出席しないと言うのに生徒課の先生方から「お願いだからこの日だけはまともな恰好して出てきてくれ」と頼まれてしまった。仕方なく予備のスカート(長さは恥ずかしながらひざ上までだった)をはいて、きつい香水は止め、金色に染めた髪もちょっと落ち着いた色に染めてそれらしく三つ編みにしてみた。
 反応は気に入らないが、上々だった。
 誰も彼もが変わってしまったあたしを見に行こうとして、校内を走り回ったという人もいる。あたしの見たことのない姿に先生が感激してぼろぼろ泣いたということもあった。なんせあたしは自他共に認める不良少女だからだ。暴走族・ピアス等はしたことがないものの、喧嘩は負けた覚えがないし決まって授業はサボり。自分で言うのもなんだが、正確に言うと孤立した不良少女というべきか。
 ところで話を戻すが、このときのあたしは当然のごとく美術準備室に来ていた。先生にはちゃっかり出席しないと伝えてあるし、見せ物になるのは御免だ。
 だけど憎き生徒課の教室は美術準備室のすぐ隣にあるため、日ごろからあたしを目にしている生徒課の先生たちが準備室のドアをノックしたりとさぁ大変。その日に限って腹黒教師は妙に機嫌が悪かったんだなぁ。普段は開かない、というか開けたところを見たことがない準備室のドアを30分に一回は叩かれるもんだから先生としてもたまったもんじゃない。かといって極楽と漫画を読んでたあたしもあたしだけど。
 先生は普段、別名マダムキラーと呼ばれていて、そこらの女の先生や女子生徒らに笑顔を振り回しては相手を悩殺しまくる。そして告白されまくるのに例の『禁断の愛』がうんたらかんたらと始まって相手を振るのだ。恐るべし、マダムキラー。だがそんな先生もあくまで人間であり、純真心がたくさんの、というわけにはいかなかった。裏の顔を垣間見た不幸なあたしはこうして先生のところへ貢がなければならなくなったのだ……。まぁ半分嘘だけど。そんな先生の性格を知るあたしは腹黒教師と名付けた。一見性格を知ったとしても腹黒には見えないのだろうが、腹黒教師はホワイトスマイルのときだけ姿を現す。一緒に美術室をすごしてきてあたしが分けられたスマイルは4つ。ホワイトスマイルとブラックスマイルと、あとはイエロースマイルとカレラススマイル。まぁ、あれだ、大体のスマイルの形はわかるだろうが、マシなのはカレラススマイルだけだ。ちなみにカレラスっていうのは無色って意味らしいので、これに名前をつけた。
 この日の先生はほとんど無表情で何かの絵に手をつけていた。キャンパスをみると、なにやら桜のようなものがある。下書きの段階なので色はなく、なんだかいろいろ線が書き込まれていてぼんやりとしか形が分からない。
 先生が無表情ということも珍しい。ドアをどんどん叩くのにも気にはならないのだろうか? それとも開き直ってみたり? でも無表情というわけにはいくまい。よし、これをグレースマイルと名付けよう。いかんせんスマイルではないのだが、ホワイトという良心めいたものとブラックという悪心が戦ってグレーという平等な結果になってしまったというところはセンスが良いではないか。
 ……はっ! いかんいかん、また名前を付けたがる病気が出てしまった!

 まあそんなこんなで悲惨な入学式を迎えたんだな。

 * * *

 部長こと宮野絢子はあたしと同じクラスだ。理系というだけあって女子よりも男子のほうが若干多く、出席順にあたしは真ん中より左側で部長さんは二番目に左の廊下側となってしまっている。何の運命か、あたしと部長さんはひとつ列が違うだけで一番後ろの席となってしまっているのだが。そして一番廊下側の列は一人少ないため、部長さんの隣は誰もいない。影の薄いゴミ箱がどんと置かれているだけだった。
 突然チャイムが鳴ってぞろぞろとみんなが席に着き始め、先生がやってきた。出席確認は点呼じゃなくて先生が勝手に取ってくれるから返事をしなくていいのだ。一応先生の話は聞くが。
 先生は去年の生物担当の丸山先生ではなく、新しくやってきた英語担当の藤堂先生だった。もちろん女。というかこんな辺鄙な学校にわざわざアイラインをきっちり付けてびっしりと化粧をしている。色女という印象があったが、なによりも独身ですオーラが纏っている。第一印象ではちょっと近寄りがたいって感じだ。それよりもこの先生、どこかで見たことがあるような気がするのだが……?
 しかし、いざ話を聞いてみると話しやすそうな先生だ。女にしては気取らなくてゆったりとした話し方。あたしにしては嫌いじゃない。
 感心しながら藤堂先生の話を聞いていると、隣の部長さんから声がかかった。
「隣だねぇ、ネアちゃんっ」
 麗しき部長さんは満開の花をばらまくような笑みをあたしに向けている。別にあたしは隣でも何でもいいんだけど、って言ったら泣きつかれるかしら? それは困る。
「ていうか、部長さんって理系なんだ……」
 見た目では典型的な文系ですよって顔してるのに。
「うふふ、意外でしょー? あたしには獣医さんになるっていう夢があってねぇ、だから理系に進んでるんだー。ネアちゃんはなんだか理系って感じだよね。もしかして数学得意?」
 数学得意というか、物理・化学が得意で国語が苦手だから進んでみただけだ。大学とか職業のことはまだ決めてもいない。
「うん、まぁ……」
 あたしは苦笑いをしてみせた。部長さんみたいな夢はない。時代に流されるまま過ごしているのだ。
 と、そこでなんだか不思議な感じがした。不思議、というよりは懐かしい感じだろうか。原因はすぐにわかった。おそらく友達というものやらとこうして話すのが久しぶりだったのだろう。いつも先生の話も聞かずぼんやりしていたのだから、その時に話しかけられた経験なんて小学校以来だ。(いっておくが小学校時代は不良ではなかったのだぞ。)
 しばらくすると、先生の話が終ったらしく生徒たちがぞろぞろと鞄を抱えながら教室から出て行った。ホームルームが終わったらもう帰宅していい時間だ。始業式の次の日だというのに一部の職員会議かなんかで五時間だけで終わってしまった。そしてこのあとは待ちに待った体験入部。二週間だけ気になるところの部活動を見に行き、自分がどこの部活に入りたいのか決めるという、毎年恒例の行事だ。
「ね、早く行こっ! あたしの知り合いが今日来るからさぁ」
「うん……」
 美術室に行くのにちょっとためらった。

 先生、グレースマイルになってなきゃいいけどなぁ。

 * * *

 標本を持ってくると言って美術室のドアから出て行った部長さんを目の端で捉え、あたしは準備室へと足を忍ばせた。
 準備室には鍵が掛かってなかったため、ゴキッと鳴りながらもドアは容易く開いた。
 先生は机に突っ伏していた。
「せ、先生?」
 いったい何があったのだろう。グレースマイルであると踏んでいたあたしにしてみれば気が抜ける事態なんだが。
 先生のいつも座っている机の前にはソファーの背がある。最初はソファーと机が向かい合わせだったのだが、何か月前かに向かい合わせは嫌だとあたしが言ったためこのような配置になっている。だって考えてみろ、ソファーの後ろにはテレビが置いてあるのだぞ? テレビから出る声を聞くだけであとは先生と顔を合わせるなんて嫌だろうが。先生曰く必要ないから一部のところに固めていた、とのこと。つまりあたしが来てから生活感いっぱいの準備室になってしまったわけだ。
 ソファーに座っているといつものようにボフッといい音がする。質のいいソファーである。背もたれ越しに先生を呼んでみた。
「せーんせー」
 放課後ですよー新入生がいらっしゃいますよー。
 顔を上げる気配がない。そこであたしはようやく先生が寝ていることに気がついた。なんだ、ちょっとずらしてみれば先生の寝顔が見えるではないか。
 マジックで落書きしたい気分を何とか抑え、先生の寝顔を眺めた。ううむ、いつみても美形である。寝ているからなんだろうけれど、眼鏡は外している。こうしてみると純情ぶりに見えない。ホストのおっさん……いや、お兄さんに見える。そういや先生って何歳だ? 二十代後半だろうと思っていたが、この高校に新任してきたのはあたしが入学したのと同じ年だったと聞いているが……。てことは、下手したら二十代前半となるのか? ……えー、まじで?
 つい先生の顔をまじまじ見てしまう。いや、二十代前半に見えないということに疑問を持っているわけではない。ただ関心を持っているだけだ。なんというか、先生が似合わない美術教師だということはどうでもいいのだが、現実を知って納得したなぁと、まあそんな感情だ。わかるだろうか。
 と、近距離で見てしまったことに気付いて頬が熱く感じたのと、準備室のドア特有の音を立てたのは同時だった。
「?!」
「うおっ! やべっ」
 準備室を覗いていたのが部長さんでないことに安心したのもつかの間、今度は人に見られたことに恥ずかしくなった。
「誰っ?!」
「いや、みてないみてない! 禁断の逢引きなんか俺は見てない!」
 変な勘違いされてる?!
「違うっ! あれは逢引きじゃない、誰にも言わないでよ!」
「あ、片おも……」
 ゴキ、と見知らぬ男子の顔を殴った。
 冗談じゃない。先生の顔を眺めていただけなんだから、そんな勘違いされたら困る。
「あんたが新入生だかなんだかよく知らないけど、このことを言ったら承知しないよ! あたしは先生とは無関係だ」
「そんな真っ赤な顔で否定されても」
「とっとにかく、誰にも言うな! 特に部長さんには!」
 不良な成りをしていたせいあってか、涙目になっていた男子生徒はすんなりと納得した。よかったよかった。部長さんに告げられたらあたしは生きていけない。
 掴んでいた学ランの襟を離して、男子生徒を自由にさせた。途端に、彼は美術室の机の陰に隠れる。
「……ところで、君。美術部の入部希望者? 体験しに来たとか?」
 男子生徒は必死に頷く。あー、悪いことしちゃったかなぁ。
「そろそろ部長さんが戻ってくるからさ」
 標本抱えてね。
「とりあえずジュース飲むか。君、炭酸抜けた甘いコーラと期限ぎりぎりの果汁100%のオレンジジュース、どっちがいい?」
「……お構いなく」
「飲んでくれるとものすっごく助かるんだけど」
 誰も飲まないし、先生はジュースの存在でさえ忘れているんじゃないかと思うのだ。ぜひとも飲んでほしい。
「じゃ、オレンジジュースで……」
 渋々って感じで彼が折れてくれた。
「そこの席に座ってて。ついでに先生起こしてくるから」

 あーあ、悲惨なことになりかけたよ、もう。

 * * *

 準備室に入ると、もっそりと先生が顔をあげた。
「あれ、先生起きたんですか?」
 もしかしてさっきの聞かれてないだろうか。できるだけ小声で脅したんだけど。
 先生は寝ぼけているのか、目が半開きだ。
「ネア?」
「はい?」
 ちょっとこい、みたいなジェスチャーをされてあたしは先生に近づいた。そして突然腕を掴まれて机に転がった。
「?」
 あれ? どうなってんだこりゃ。机に転んだのは確かだ。あたしは今机に寝そべっている状態である。まだ先生に腕を掴まれてるし、さらには目の前には先生の眼鏡を掛けていない顔が映ってるし。
 あ、あはははは……。
 やべ。なんか状況がわかってきた。
「ぎにゃぁぁぁぁあああああ!!」
 先生、起きろぉぉおおっ!
 だけど先生は半眼開きで夢心地気分ってな感じ。どうやらあたしを先生の彼女さんと勘違い中? あ、でも彼女はいないって言ってたから過去の彼女さんかなぁ。むしろ今好きな人だったりして?
 なんてことを考えていると、先生が何かを言おうとしている。
「え?」
 よく聞き取れなかったのでもう一度聞こうとすると、先生ではない誰かの叫び声が聞こえた。
「あーらら、カメラ持ってくるべきだったわ」
 その声にあたしはギクッとした。これは部長さんだ。あの叫び声はさっきの男子生徒だろうからいいとして、部長さんにこのシーンを見られると非常にやばい気がする。かといって机から起きられないので確認することも逃げることすらできないのだが。
 と、そこで先生の背後に部長さんの姿が見えたと思うと、先生がふらっとあたしのほうに倒れた。
 なにがあったのかさっぱりである。
「このまま見るのもおもしろそうだったんだけどねぇ、これは先生の夢だと思わせておいて先生には眠ってもらいましたー」
 左手には標本、右手は親指以外のすべての指をぴんと伸ばせている。眠らせたってことはもしやさっきのは手刀ってやつか? あの空手の一種の。
「な、ななな……」
 何者、部長さん。
「はいはい、大ちゃん。そんなうぶな反応してないで先生を起こすの手伝ってよ」
 大ちゃんと呼ばれた男子生徒はドアの隅から真っ赤な顔を出してきた。

 ……あ、しまった。あたし準備室のドアを閉め忘れてた。

 * * *

 あれから数十分してから先生が目を覚ました。部長さんが始終にこやかに笑っていたので、雰囲気はもう最悪だ。あとで何か言われるに違いない。そんな部長さんのオーラのせいで先生にあの事を覚えているのかと聞きづらい。無論、先生もどうして寝ていたのかって、そんな感じの視線をこっちに向けてくる。あたしに聞くなって。
 恥ずかしいシーンを二度も見られたあたしとしてはもう口もきけない。みんなが固まっている端でひっそりと佇むことにしようではないか。

「さてと」
 部長さんが仕切った。
「この子はあたしの幼馴染の和田 大輔(わだ だいすけ)っていうの。あたしの家が空手道場で大ちゃんは小さいころから習いに来てくれてるんだー。だから幼馴染なんだけど」
 空手道場。だから手刀とか大げさなものができるんだと理解できた。見た目では彼のほうが強そうなのだが、彼の部長さんに対する姿勢がいまいちなのは部長さんのほうが強いからだろう。
「みゃーこ! 大ちゃんって呼ぶなって言ってるだろいつも!」
「大ちゃんなんか大ちゃんで十分よ。それに大ちゃんこそ、いい加減にあたしのこと先輩って呼んでほしいわ。昨日あれだけ家で注意したっていうのに!」
「昨日の今日でそういきなり呼び変えられるかよ!」
 と、二人は勝手に口喧嘩をし始めた。幼馴染ってこんなもんだっけ。
 あたしは昔の記憶をたどってみたものの、昔は特に仲の良い友達はいなかった。幼稚園ぐらいからの友達がいるくらいで、今はもう話すこともない友達ばかりだ。正直、うらやましい。
 先生はどうだろう。
「先生って幼馴染いるの?」
「いるにはいますが、社会人になってからは会ってませんねぇ」
 幼馴染というよりは悪友という感じですけど、と先生は付け足す。ってことは学生生活では純情ぶっていなかってことになるのだろうか。にしてもどうして先生となったときからこのような性格を始めたんだろう。
 部長さんと大ちゃん(部長さんの真似)の取っ組みがひとまず落ち着き、部長さんは先生に聞いた。
「そういえばセンセ、もうひとり当てにしている人がいるって言ってたじゃない。その子はどうしたのー?」
「……その子ならここにいますが」
「こんにちは」
「うわぁっ!!」
 突然の見知らぬ生徒の挨拶に、あたしを含む三人が一斉に驚いた。い、いつの間に美術室に来てたんだ……?
「さきほどからずっと居ましたよ」
「それならそうと早く言ってよー。センセったら趣味悪いわね〜」
 さすがの部長さんも目を丸くして、胸に手を当てている。後ろの大ちゃんなんか言語道断だ。
「こんにちわ〜あたしは美術部部長の宮野 絢子でーす。で、向こうで落ち込んでいるのが副部長のネアちゃん。君の名前もうかがっていいかな?」
 あたしのフルネームを名乗ってはくれなかった。部活内で苗字で呼んでくれなさそうな危機感を感じたのだが、あの影が薄そうな男の子の自己紹介でそれは消えてしまった。
「吾輩は山田次郎である。名前はある。どこに生まれたかもとうに見当は付いておる」
 なんかパクってる。
「普通に話してくれたんでいいからね……?」
 部長さんも呆気にとられているようで、ちょっとたじたじになっている。
「仕方がないのだ。吾輩はこういう話し方しかできぬ」
 まじっすか。
 部長さんが苦笑しながら先生を見上げた。あたしはふと次郎君の顔にデジャヴを感じた。どこかで見たことあるような顔だ。ちょっと低めの鼻に、くるっと髪の毛が巻いてある。でもそれが可愛いと思ったのは……そう昔ではないはずだ。本当ならここで檜の匂いがつくのだが……―――。

「あーーーーー!」
 思い出した!
 お行儀が悪いけれどあたしは次郎君の顔に指をさして叫んでしまった。みんなは何事かとあたしを見てくる。
「ジョニーだ!」
 まさかついこないだまで会いたいと思ってたジョニーのモデルさんが現れるなんて思いもよらなかった!
 先生はあたしの変な名前を付ける癖を知っていたから真新しい石膏像のジョニーの名前もピンと来るんだろうけれど、部長さんは整った眉をしかめた。
「ネアちゃん、ジョニーって誰?」
「ほら、あの部室にある首だけの石膏像があるでしょ。あれがジョニーなんだけど」
「首だけジョニー?」
 んな波乗りジョニーみたいなテンポで言わないでくださいな。
 と、とにかくジョニーのモデルさんならあたしは嬉しくて飛び上りそうだわ!
「あの石膏像ならば確かに吾輩がモデルである」
「やっぱり!」
「吾輩の父上が芸術家であるので、おそらく父上の作品であろう」
「お父様の?」
 と、部長さんが割り込んできた。
「次郎君のお父さんは有名な画家でしてね。僕が就任する前の美術教師とお知り合いで石膏像を寄付してくださったのですよ」
 先生が首だけのジョニーを抱えて説明した。ジョニーを支えている木の板の裏には日付と『タロウ』というサインが書かれてある。つまり有名な画家のお父さんが山田 太郎という名前なのか? なんとも安易な名前だ……。
「へぇ〜……」
 でも、ジョニーのモデルさんに会えたのは嬉しい。
 あたしのこの日の調子が最悪だったのが、最良となった……

 というのは、体験入部が始まる前の話であったりする。

 * * *

「だぁ〜! 誰だ標本をモデルにしようとしたのは! 不良娘の力量を見てモノを言ってるのか?!」
 ご、ごめんなさい。
「……煩いのである。モノを作るのに集中してやるのは常識であるのだが」
 でもちょくちょくあたしにやり直せと言っているのはあたしが下手だからに違いない。
「やぁねぇ、心臓の位置を間違えるなんてネアちゃんったらイ・ケ・ズ☆ ネアちゃんって医者になれない人間だねぇ」
 遠慮なく突っ込むのは構わないが、申し分ないのが悲しい……。
「賑やかでいいですねぇ〜」
 と一人後ろで眺めている先生。助けてはくれまい。初日からやり込められているあたしを見て密かにイエロースマイルで笑っているはずだ。く、悔しすぎる。

「あははは……」
 一方狂ったように空笑いをするあたしがいる。

 こうして宿敵腹黒教師並びに素敵な美術部のみなさんと、素敵な高校生活が始まったのでした。



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