01.麗しき委員長


「ということで、あたしたちの清掃の場所は学校の裏庭に決まった。以上」

 弥撒が何の感慨もなくメモ帳に書き留めた昨日の委員会で話し合った決定事項を読み上げた後、教室の所々にため息から悲鳴もどきまで聞こえてきた。
「裏森ー?」
「ちょ、ちょっとちょっとっ」
「冗談やめてよね委員長!」

――冗談ではないのだがな……。

「委員長、裏森で今年もう既に三人行方不明になっているの知っているでしょ?」
「知るか」
 入学したとたん委員長を務める羽目になった弥撒は、そこできっぱりと否定した。それと同時にクラスの皆が固まる。
 もちろん、裏森の良くない噂を知らないはずはない。毎年必ず誰かが行方不明となる学校の裏森だ。

 別名、『神隠しの森』。
 大げさすぎる。
 神などいないと思っている弥撒はその名前が気に入らなかったりするのだが、実際このクラスの一人が行方不明になっているのだ。興味がないからといって無視できるものでもなかった。
「委員長、もしかしてそんなにジャンケンが弱かったんスか?」
 微妙な敬語を使ってくる男子生徒に弥撒は「まさか」とだけ言い返した。
 清掃の場所は各クラスの委員長らが希望の場所を言い合い、重なるところがあればジャンケンをして決めるというものだった。負けたほうに面倒な清掃場所や、トイレ掃除などが回ってくるという、実に公平なやり方である。そのジャンケンのために委員長たちは練習していたりするらしいのだが、本番は運だろう。ジャンケンは練習しだいで上手くなるはずもないのだ。
 だが、弥撒はそんなやり方など最初からくそくらえである。
「誰がそんな面倒なことをしなきゃならんのだ」
 みみっちい。
 もはや誰も彼もが固まって、弥撒以外一言も喋ろうとはしなかった。面倒なことを一番に嫌う弥撒がジャンケンを回避するために、わざと人気のない裏森を選んだということが皆一同に悟ったのだろう。
 うむ、さすが神名木学園の生徒たちだ。

 静寂となった教室で、教壇の上にあるメモ帳をまとめて自分の席に戻ろうとした弥撒に、やっと一人の男子生徒が呟いた。
「委員長がそんな性格しているとわかったら推薦しなかったのに……」
 俺も、私もよと次々と生徒たちが言い出す。
「自業自得だな」
 だけれど、やはり弥撒の一言で沈没。
 委員長の仕事は、校長の「責任の持てる人ではなくてはだめだ!」というかなりアバウトな心意気のせいで、立候補ではなくクラス全体の(教師含む)推薦で決められるのだ。そこで委員長定番と取れる三つ編みで眼鏡という格好をした弥撒が、なんとクラス全員の推薦で選ばれることになったのだ。
 外見だけで人を見極めてはいけない、と弥撒自身が叫びたかったほどだ。
 しかもこの学校は意外と偏差値が高く、県外からの編入生が多い。そして弥撒もその一人であるため、誰も弥撒の性格など知る由もなかったのだ。

「あたしもこんな面倒な仕事は大っ嫌いだ」
 あぁ、と呆れとも嘆きともとれる感嘆な声が教室のあちこちで広まった。




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