00.始めの第一歩
『お父さんの故郷に行く気はない?』
思えばお父さんのこと、何も知らない。
どこで生まれたとか、どんな顔をしているのかとか、どんな性格だったのかとか。
『これお父さんの形見なのよ』
そう言われて渡された小さな石は、とても澄んで綺麗だった。
それよりも、父親が既に天に召されていること自体知らなかった。
小さいころからお父さんがいないなぁと思うだけだったし。
『弥撒(みさ)、お父さんの事知りたいと思わない?』
興味なら、ある。
初めて見た母親のふわふわとした表情が優しくて、その表情をさせる父親がどんな人なのか気になっていた。
残念ながらあたしは母親似で、お母さんと並んでいると姉妹と間違えられるためか父親にちっとも似ていないと自負できる。街で歩いていると必ずって良いほど間違えられるのだ。
母親によると、目元が父親似なのだそうが、ほんの少し吊り目になっているだけで母とどう違うのか見当もつかない。
あと、笑ったときに出来るえくぼも似ているのよ、とも言われた。鏡の前でニヤニヤ笑っていると周りの人に怪しまれたので、もうそれから確認しようとは思わない。人前でするべきではなかったな、あれは。
さて、どうしたものか。
正直、父親のことなどどうでもいい。それに面倒臭い。
だが、それを見計らって、ニヒルな笑顔を見せたお母さんの顔が怖い。
『あそこだと、誰にも邪魔されずに安心して眠れそうよねぇ…』
ピク、とあたしの耳が勝手に動くのを体の神経で感じ取った。
ぼそっと呟いた悪魔の誘いを、無論あたしが断るはずもないとこの母は十分承知しているのだ。
というわけで、あたしは安眠を求めて神名木学園に入学する羽目になった。